シュールって何って聞かれてもよく分からないですよね。という事で、ベタなネタとシュールなネタを作ってみたので、実際に、比較検討してみたいと思います。
どちらも根本的な構造は同じなのですが、見せ方、装飾の仕方、表現の仕方の違いなのかもしれません。全ての物作りをしてる人にとって、「伝える」というのは、とても大切なテーマです。このベタとシュールを通して、クリエイティブをどう表現するかという事の参考になれば嬉しい限りです。是非、最後までご覧下さい。
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目次
ベタとは?
お笑いの構造上、ネタフリとオチは、必ず必要なものです。その中でも、よりフリとオチが明確になっていて分かりやすいネタ、それがベタなネタだと言えます。例えば以下のようなやりとりです。
熱血教師
A「不良生徒を更生させる熱血教師をやってみたいねん」
B「昔は、ドラマとかで手出したりしてたけど、今のご時世、手とか出したらアウトやで」
A「大丈夫や。ちゃんと熱意で更生させてみせるから。不良生徒の役やってくれるか」
B「分かった」
A「じゃ体育館裏でタバコ吸ってる設定な」
B「(タバコ吸いながら)はぁ、学校で吸うタバコは格別にうまいわ」
A「おい!なに学校でタバコ吸うてんねん!」(ビンタする)
B「いきなり手出したやん!いやいや、ちょっと待て。手出したらアカン言うたやん」
A「ごめんごめん、つい熱くなってしもたわ」
B「違うがな。手を出さずにタバコをやめさせなアカンねん」
A「分かってるがな。もう1回頼むわ」
B「(タバコ吸いながら)はぁ、学校で吸うタバコは格別にうまいわ」
A「おい!なに学校でタバコ吸うてんねん!タバコなんか辞めてこれにしとけ」
B「何ですか?」
A「マリファナや」
B「もっとアカンやないかい!」
A「先生もこれでタバコ辞めれたんや」
B「これも辞めなアカンねん!」
A「お前、だれ、や?」
B「ラリってるやないかい!ちょっと待て」
これがベタなネタです。「今のご時世、手とか出したらアウトやで」というフリに対して、すぐに手を出しています。さらに「タバコなんか辞めてこれにしとけ」と自分でフリを入れて、それよりも、もっと悪いマリファナを勧めるというボケです。
このように、フリに対して真逆で、ストレートなボケをしています。やってはいけないというネタフリで、それをやるという構造です。
似たような感じで、フリに対しての真逆のボケというのは、以下のようなものです。
そして、真逆の分かりやすぎるボケは、お客さんに伝わり易いのですが、そればかりだと飽きられてしまいます。そこで真逆から少しづつズラしていくことで、ベタに見えないようになっていきます。
例えば、銀行強盗の設定だとします。分かりやすいベタなボケは「手を挙げろ!」に対して「足を挙げる」などのボケだとします。この際、面白さは度外視して下さい。
ベタをズラしていく
ここから、少しづつズラしていきます。「手を挙げろ!」というフリに対して「ガッツポーズ」をしています。このようにフリに対して、真逆から少しズラすだけで、ベタな感覚は少し薄まったと思います。
セリフ
A「手を挙げろ!」
B「(ガッツーズ)」
A「なにガッツポーズしてんねん!状況、分かってんのか!」
他にも以下のようなズラ仕方も考えられます。
セリフ
A「手を挙げろ!」
B「(大仏のポーズ)」
A「なんで大仏みたいになってんねん!ちゃんと挙げろ!」
他にも以下のようなズラ仕方も考えられます。
セリフ
A「手を挙げろ!」
B「(エッグポーズ)」
A「なんでエッグポーズやねん!ナメてんのか!」
ズラせばズラすほど、ベタからは遠ざかっていきます。しかし、笑いの構造はネタフリがあってオチがあるという根本的な構造からは変わりません。
ベタこそ最強
ベタというと分かりやすいボケだからなのか「ベタやなぁ」とバカにしたような発言を耳にすることがあります。でも、それは間違いです。ベタというのは、物作りをするにあたって、相手に分かりやすく意図を届けられているので、素晴らしいことです。
お笑いをちゃんとやればやるほど、ベタをちゃんとやりきる事が、どれだけ大切な事かを思い知らされます。
難しい事を難しいまま発表するのは物作りとしてダメな行為です。難しい題材を分かりやすく噛み砕いて伝える、という編集作業は相手を思いやる大切な行為です。
そして、ベタはウケます。その中でも、売れっ子がベタをした時が最強にウケます。多くの人が、この人は面白い!と認知してる状態の人が、しっかりとネタフリをして、ちゃんと面白さを伝える、これが最強に笑いが起きます。
シュールとは?
シュールなネタの明確な定義というものはありません。多くの人が、超現実主義とか、なんとか、いろいろ言ってますが、そのほとんどがネタを作った事ないけど、お笑いが好き、という人の意見です。
僕自身、放送作家としてお笑い業界に20年近くいましたが、シュールの定義を聞いたことはありません。人によって、かなり曖昧です。そこで、僕なりのシュールとは、こんなものじゃないか、という事を定義してみたいと思います。
提案する角度が違う
まず1つ目の定義です。シュールというのは、フリに対して、ズラし過ぎた状態だと思います。ベタは、フリに対して真逆、もしくは、真逆からズラしているけど、フリというイメージを逸脱しているものです。
それに対して、シュールは、フリを全く無視してる訳ではないけど、フリとは違う角度からボケてきてるイメージです。本来なら、以下の画像のように青い丸をイメージさせたら、違う形を提案するのが分かりやすいボケです。
この場合だと、綺麗な青い丸をイメージさせておきながら、吹き出しみたいな形ができました。「青い丸かと思ったら吹き出しみたいになってるやん!」というのボケです。
もしくは以下のように「ちっちゃ!」というサイズが違うというボケとかです。
これに対して、シュールなネタというのは以下のような感じです。青い丸を地球儀に変えています。形ではなくて、それ自体を変えてるボケで、上2つとはボケる角度が違っています。
状況と状況のミスマッチ
2つ目の定義です。シュールなネタというのは、フリとかオチを言葉で説明するのではなくて、状況と状況のミスマッチが、フリとオチになってるものがあります。例えば、外国人の人のタトゥです。
頭に「足」というタトゥを入れてます。ネタフリがなくても「そこ足ちゃうよ!」というのは誰でもツッコメます。このように状況がフリになっているので、説明が必要ありません。こういった光景はシュールな光景と言えます。
同じように、ネタふりで説明が必要なくても、状況Aと、それに相応しくない状況Bが重なり合うとボケになる事もあります。例えば、1人のサラリーマンが事務所に謝りに来たとします。
事務所でソファにふんぞり返って座ってるのは強面のヤクザです。ヤクザは電話相手と喋っています。そこにはつい立があり空間がセパレートされています。謝りに来た男が「失礼します」と部屋の中に入ります。
ヤクザは電話相手に対して怒ってるので、誰かが事務所に入ってきた事に気づいていません。そこに謝りに来た男が入ってきて「すいません」と土下座します。すると以下のようなやりとりが行われたとします。
活字で分かりにくい場合は、動画でご覧頂いた方が分かりやすいので、是非、ご覧下さい。
ヤクザと謝りに来た男の会話
謝る男「すいません」
ヤクザ「今頃、遅いんじゃボケ!」(電話相手に)
謝る男「これには事情があるんです」
ヤクザ「お前に、どんな事情があろうと俺は許さねえ」(電話相手に)
謝る男「ど、どうすればいいんですか?」
ヤクザ「お前、俺の事・・・、好きなんか?」
謝る男「え、あ、好きか、どうかですか?」
ヤクザ「ハッキリせんかい!好きか嫌いかどっちやねん!」(電話相手に)
謝る男「好きです!大好きです!」(電話相手に)
ヤクザ「そうか。俺もお前の事が忘れられへんかったんや」
謝る男「そうですよね。お金を借りたままですもんね」(電話相手に)
ヤクザ「愛してるで」(電話相手に)
謝る男「え〜!」
ヤクザ「うん。結婚を前提にやり直していこ。エリナ」(電話を切る)
謝る男「エリナ!」
ヤクザ「誰じゃコラ!(立ち上がって目の前に来る)われ、今の聞いてたんか!?」
謝る男「何も聞いてません!エリナさんと結婚、おめでとうございます!」
ヤクザ「全部、聞いとるやないかい!」
この会話のやりとりには、セリフで伝えたネタフリはありません。しかし、状況と状況が偶然、重なり合って起きた面白い現象です。このようになシチュエーションも、シュールな状況です。
その他のシュールな光景
他には以下のような状況と状況のミスマッチもシュールな光景として考えられます。これらは説明がなくても笑いになります。
シュールな光景
・熊出没注意!と書かれた看板を見ている熊
・酔っ払い外国人が腕に入れてるタトゥが「禁酒」
・指名手配の写真を見せながら聞き込みしてる警官。その後ろを通り過ぎる指名手配の写真の男。
シュールとは独特な世界観
3つ目の定義です。上記では、シュールとは、ベタのように真逆なボケではなく、ズラした角度が極端であり、違う角度からボケてくるものだと定義してみました。さらに、シュールを定義するなら、現実的にはない世界観を描いてるもの、とも言えます。
銀行強盗のような分かりやすい設定ではなくて、本来、現実にない独自の世界観のあるもの。それもシュールだと言えます。
お芝居でも映画でもそうですが、説明し過ぎると冷めてしまう、という事があります。作者の世界観をぶつけてくる感覚です。分かりやすいネタフリではなくて、徐々に気づいていく過程が面白いコントというのもあります。
その世界観というのは、説明が極力、少なく見ているうちに理解できていきます。
シュールな世界観という言葉あるように、作者の世界観が強くて、本来、あり得ない設定で、不思議な世界観、というのもシュールなものだと思います。えびにボクシングを教え込み人間と戦わせようとする「えびボクサー」は、まさにシュールな映画と言えます。
良いシュールとイマイチなシュール
シュールと呼ばれる芸人さんもいらっしゃいます。でも、売れてる芸人さんでシュールなネタをやってる人というのは、ちゃんとお客さんに伝わるように仕上げています。説明はし過ぎない、そして、違う角度からボケくる。でも、ちゃんとウケる。
この背景には、フリとオチという笑いの構造は存在しています。
ダメなシュールというのは、独りよがりな世界感で、笑いの構造であるフリオチもなく、理解しがたいもの不親切に押し付けてくるネタです。
まとめ
お笑いのネタにおけるシュールの定義というのは難しいですが、ここまでの話をまとめるなら以下のようになります
シュールの定義
・ボケの角度が違うネタ
・状況と状況のミスマッチ
・現実的にはない独自の世界観
物作りをするにあたって、ベタでもシュールでもどちらでも構わないです。大切な事は、作ったものをちゃんと相手に伝えるという事が大切です。
せっかく苦労して作ったものが伝わらなかったら、作った甲斐がないですよね。多くの人に伝わって評価してもらえるからこそ、やり甲斐を感じて、それを励みに、また頑張れるのだと思います。是非、参考にされてみて下さい。